AIツールが生成する低品質な動画コンテンツ、通称「AIスロップ」が、米国で最も脆弱な視聴者層である乳幼児の間で急増している。制作者にとっては「金鉱」である一方、子どもの発達に深刻な影響を及ぼす可能性が指摘されており、親や専門家は警鐘を鳴らしている。
AIが量産する「ベビーシャーク」の夢
ユーチューバーたちは、ChatGPTなどのAIツールを駆使し、無意味な言葉やカラフルなアニメーションが満載の児童向け動画を簡単に量産している。ある制作者は「1日に数百ドル(数万円)稼ぐことも可能だ」と述べ、「やるべき作業は全体の5%だけで、残りはAIがやってくれる」と証言している。彼らは、YouTube史上最多の再生数を記録した「ベビーシャーク」のような大ヒットをAIの力で再現できる「参入のチャンス」と捉えている。
2歳未満児の60%超が視聴する現実
このAI制作の簡易化と並行して、乳幼児のYouTube視聴も急増している。ピュー・リサーチ・センターの調査によると、YouTube視聴者はこの5年で、2歳未満が最も増えた層となっている。米国では2歳未満の子どもを持つ親の60%以上が、自分の子どもはYouTubeを見ると回答しており、乳児の70%がYouTubeまたは子ども向けのYouTube Kidsを利用しているという調査結果もある。
しかし、米国小児科学会(AAP)は、子どもの脳の90%が5歳までに発達するという事実に基づき、2歳未満には「メディア使用を極めて限定的にするよう」勧告している。
「AIスロップ」が子どもの認識能力を蝕む
子どもの安全を訴える活動家や専門家は、AIが生成した低品質コンテンツ、すなわち「AIスロップ」が、子どもの認識能力に悪影響を及ぼす可能性を指摘している。
ミシガン大学医学部の発達行動小児科医ジェニー・ラデスキー氏は、「内容はともかく、とにかく注意を引くことだけを狙った動画というのがパターン化している」と警鐘を鳴らす。展開が速く、強い刺激の動画が子どもの注意力や集中力にどう影響するか、親たちの懸念は尽きない。
親たちは、仕事や家事といった他の大切な役目を果たすための「一時的な休息」として、子どもにYouTubeを見せてしまうという葛藤を抱えている。AI技術の進歩が、子育ての現場に新たな倫理的・発達上の課題をもたらしていると言えるだろう。






